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第8章 揺れる想い 1/8

last update Last Updated: 2025-06-07 11:00:04

「今日もいい天気ですね」

「はい、風がとっても気持ちいいです」

 * * *

 この日も柚希〈ゆずき〉は、川で紅音〈あかね〉との時間を過ごしていた。

 あの一件以来、またこうして穏やかな生活が戻ったことは、柚希にとって何よりの喜びだった。

 確かに色々と問題は残されている。何ひとつとして解決していないとも言える。

 しかし柚希はあの日、これからは逃げないと誓った。

 山崎の問題も、必ず自分の力で乗り越えてみせる、解決してみせると決意した。

 柚希は環境に翻弄されていた日々と決別し、自ら能動的に生きていく道を選んだ。

 いつも穏やかで優しい柚希の横顔に、凛々しさが宿っていることを紅音が感じたのも、必然と言えた。

 紅音の柚希への想いは、日に日に深まっていった。

「でも紅音さん、紫外線の為とはいえその服、暑くないですか?」

「確かにこの服、見てるだけで暑くなりますよね。でもこれ、見た目よりも涼しいんですよ」

「そうなんですか?」

「はい。この服、これでも夏用なんです。生地も薄いですし、風通しもいいんですよ」

「なら安心です。紅音さんが僕との約束の為に、暑いのを我慢して来ていたら悪いなって思ったんで」

「そんなことないですよ。それに……私はいつだって、柚希さんとこうしてお話ししていたいですから」

 そう言って紅音が、柚希の手に自分の手を重ねた。

「紅音さん……」

 柚希がその手を握ると、紅音も握り返してきた。

 そして二人、体を寄せ合いながら空を見上げた。

 * * *

「なーにやってるんだか、お二人さん」

 土手から陽気な声が聞こえた。

 その声に、柚希と紅音は反射的に手を引っ込め、土手を見上げた。

 そこには自転車にまたがっている、早苗〈さなえ〉の姿があった。

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